更年期障害
更年期障害とは
更年期で起きるほてりや発汗、不眠などの自律神経失調を中心とした不定愁訴を訴える疾患は更年期障害と呼ばれ、早い人だと40代前半から症状が出始めます。症状に大きな個人差がある疾患ですが、予後は良好で、症状が1~数年間続き、大半は老年期に近づくにつれ軽快していきます。
更年期とは、日本産婦人科学会の定義によると「生殖器(性成熟期)と非生殖器(老年期)の間の移行期をいい、卵巣機能が減退し始め、消失するまでの時期」とされ、一般的には閉経の前後数年間を指し、その時期に起きる自律神経失調を中心とした様々な不定愁訴を訴える疾患を更年期障害と呼びます。
原因は加齢によって起こる卵巣機能の低下に伴うエストロゲンの減少、社会的、環境、個人要素などが合わさることで発症するといわれています。
性格や生活環境によって症状の度合いが左右されるので、几帳面な性格、またストレスへの対処の仕方が親子の間で似ている場合は、確かに同じような症状が強く現れやすい可能性が高くなりますが、遺伝はしないとされています。
症状に個人差が大きく出る疾患ですが、閉経から何年か経つと視床下部も身体の変化に適応し、症状が治まっていきます。
更年期障害の症状
自律神経失調を中心とした多彩な不定愁訴です。不定愁訴は大きく次の4種類に分けられます。
- 血管運動神経症状
- hot flush(のぼせ、ほてり、発汗など)、動悸、心悸亢進、手足の冷えなど
- 精神神経症状
- 抑うつ感、イライラ、易怒性、不眠、焦燥感、頭痛、めまいなど
- 知覚神経症状
- 手足のしびれ、手足の感覚の鈍化、耳鳴りなど
- 運動器官への症状
- 易疲労感、倦怠感、肩こり、手足の痛み、腰痛など
その他の症状として下記のような症状もあらわれます。
- 尿漏れ・残尿感
- 下腹部のかゆみ・性交時痛
- 便秘・下痢・食欲の低下
- 白髪・抜け毛・シミ・シワ
どの症状も個人差が大きく、個人の生育歴や心理的要因が深く関わってきます。しかし、さまざまな症状を訴えているにも関わらず、一般の診察や各種検査では異常が無いものを更年期障害と呼ぶので、上記の症状にあてはまっていても、自分自身だけの判断で「更年期だから仕方ない」と考えるのではなく、一度、医師の診察を受けることをお薦めします。
更年期障害と間違いやすい主な病気
更年期障害と間違いやすい病気がありますので症状が重たい、また多数にわたる場合は念のため検査が必要です。
- 高血圧
- 糖尿病
- メニエール病
- 甲状腺機能障害
- うつ病
- 子宮筋腫
- 子宮がん
西洋医学の更年期障害
更年期障害の原因と成因
主にエストロゲン分泌の低下が原因となり、そこに社会的環境、個人的環境の変化(子供の成長に伴う母親の役割の終了、子供の進学や就職の心配からの解放、両親や近親者また友人の病気や死など)などが加わることで発症します。
更年期に近づくと卵巣の機能が低下し、卵胞ホルモンのエストロゲンの分泌は徐々に低下していきます。そして、閉経を迎える頃にはエストロゲンは激減してしまいます。また、プロゲステロンの分泌はエストロゲンよりもさらに急激に減少していきます。
エストロゲン、プロゲステロンの急激な減少に対して、視床下部はゴナドトロピン(黄体形成ホルモンと卵胞刺激ホルモン)放出ホルモンを分泌します。命令を受けた下垂体はゴナドトロピンを分泌して卵巣を刺激しますが、機能が低下した卵巣は対応することができず、卵巣から反応が無いため、下垂体は更にゴナドトロピンを分泌し卵巣を働かせようとします。
いつも通りの命令で卵巣が反応しないため、視床下部は混乱し、自律神経系にも影響が現れるようになり、ほてりや発汗、心悸亢進などの更年期障害の症状が出てきます。ただし、個人差はありますが、閉経から何年か経つと視床下部も身体の変化に適応し、症状が治まっていきます。
更年期障害の治療
更年期障害の診断は問診、ホルモン検査、心理検査によって行います。治療は各個人の症状にあったものを行いますが、主に薬物療法と心理カウンセリングを組み合わせることが多いようです。
薬物療法では、卵巣機能低下によって不足しているエストロゲンやプロゲステロンを補充投与するホルモン補充療法(HRT)、抑うつ感の改善のため抗うつ薬や抗不安薬の処方、ほてりや発汗、心悸亢進などの改善のために漢方薬を使用します。
ホルモン補充療法(HRT)
ホルモン補充療法(HRT)は、外因性のエストロゲン・プロゲステロンを対症的または予防的に投与する治療法です。エストロゲンの副作用として、子宮内膜の増殖、エストロゲン依存性腫瘍の増殖、血栓症や肝機能障害の増悪などがあるため、個人によって使用できる薬が異なってきます。
- エストロゲン(卵胞ホルモン)
プレマリン、エストリオール、ホーリン、デボシン など - ゲスターゲン(黄体ホルモン)
プロベラ、ヒスロン、ノアルテン、ルトラール など - 混合ホルモン
プリモジアンデポー、ボセルモンデポー、メサルモン など
東洋医学の更年期障害
東洋医学では、更年期障害は腎気の減少と共に、天癸 (てんき:性ホルモンのようなもの)が少なくなり、更に衝脈・任脈の働きが弱まって月経が停止することで起こる一連の症候群とかんがえています。
また更年期障害には腎、肝、脾、心の四つの臓の働きが関係し、これらの臓の気のバランスが崩れることでさまざまな症状が起こると考えられています。
腎の不調による症状
余分な水分だけを外に出して、良い状態の水分バランスに調整する働きを持つ、主に「利水剤」と呼ばれる漢方薬が使用されます。
腎が衰えると活動力が低下し、免疫力の低下や身体全体の老化現象が加速します。
- 腰痛
- 易疲労感
- 頻尿、残尿感
- 耳鳴り
- 白髪、抜け毛
肝の不調による症状
肝が弱ると気や血が停滞し瘀血が発生し、主に精神的抑うつ、イライラして怒りっぽいなどの症状が起こります。
- イライラ
- のぼせ、ほてり
- 頭痛
- 冷え
- めまい
脾の不調による症状
脾は「運化」、「昇清」、「統血」の3つの働きを持ち、この3つの働きのバランスが崩れるとむくみ、消化不良、全身倦怠感、血尿、不正性器出血などが起こります。
- 食欲の低下
- 便秘、下痢
心の不調による症状
心の異常は特に汗に現れます。
- 焦燥感
- 抑うつ感
- 動悸
- 不眠
- 盗汗
よく使用される漢方薬
更年期障害の鍼灸治療の方針
更年期障害の治療では、まず全身の気血の調整を目的として行い、それと共に各臓のバランスを整えることも合わせて施術していきます。症状やその人の体質などによって多少の違いはありますが、主に背面、脚、足の経穴に治療を行います。
通っていただくペースとしては、2週間に1度が理想的で、効果が出るまで2~3ヶ月は必要となりますので、ゆったりとした長い目で効果を期待してください。
更年期障害の養生法
更年期障害でお悩みの方は、まず食べすぎないことを心がけましょう。摂取するカロリーは、約1500~1800kcalを目安に、なるべく多くの食品を組み合わせ、数種類のメニューを食べるようにしましょう。
摂取を心がけた方が良いもの
- カルシウムが豊富で骨粗鬆症の予防となる食べ物
貝類、小魚 - 精神を安定させる効果があるもの
レンコン
摂取を少なめにした方が良いもの
- 粘膜を充血させたり、血の循環を悪くする食べ物
チョコレート、唐辛子などの刺激物、アクの強い野菜(たけのこや山菜など) - コレステロールや飽和脂肪酸の含有量が高い食べ物(高脂血症や動脈硬化の要因となるため)
肉、レバー、牛乳、卵、いくらやかずのこなどの動物性食品の脂肪 - 高血圧や胃がんなどを引き起こす原因となるもの
塩分
また、夜更かしや飲酒は自律神経の安定を妨げるので、規則正しい生活を心がけましょう。
不安感が強いときは手のひらにある労宮を自分で押すのもおすすめです。
更年期障害でお悩みの方へ
更年期はご自身の人生を楽しむ第2の人生のスタート地点であると言われています。そんな時に、身体の不調で行きたい場所に行けなかったり、やりたいことができず、更年期に入ったことを自覚して、落胆と同時にお身体の変化に困惑してしまうかもしれません。しかし更年期を第2の人生を豊かにするための準備期間だと考えて、ゆったりと過ごすようになるべく心がけていただけたら良いと思います。
私たちは、その準備期間にストレスの解消や自律神経のバランスを整えて、更年期障害と上手に付き合っていくお手伝いをさせていただきたいと考えています。